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(提供:NASA/JAXA) 野口聡一×立花隆 対談


5.宇宙の常識・地上の常識(2)

野口 打ち上げして3日目にISSを確認しました。 最初見えたときには小さな星にしか見えません。 接近していくと徐々に大きくなってきて、「うわ、大きい宇宙ステーションだな」(笑)。 完成すれば、全長110メートル、幅75メートルなんですがいまの時点で幅、奥行きとも五〇メートルぐらいです。 船で離れ小島行くと、水平線にわずかに島影が見えていたのが次第に近づくと、 やがてはっきりした形がが見え、港が見え、人が見えてきます。 まさにそういう感じでした。 バーチャルでしか知らなかった宇宙ステーションの実物が目の前にある。 ドッキングしてハッチを開けたら人がいた。 なんだか新鮮な驚きでした。

立花 ちょっと感動的でしょうね?

野口 ISSにはアメリカ人、ロシア人が各1人ずついました。 かれらは4月に打ち上げられていたから、4ヶ月ぶりに自分たち以外の人間に会ったわけです。 だから歓迎してくれました。

立花 ドッキングの過程を教えてください。 全自動ですか? マニュアルで操作するんですか?

野口 最後の1時間半ぐらいがマニュアル操作です。 最後の最後は船長の腕次第ですね。 我々の船長はアイリーン・コリンズという女性です。 ジェットを使って微調整をくり返し、ISSのドッキングポートに接続します。 許容される誤差は位置誤差が±一インチ、角度誤差は2度以内です。

立花 すごいものですね。 向井さんは無重力状態に強い印象を持ったらしいですね。 地球の引力との対比の不思議さについてくり返し語っています。

野口 地上で暮らしているといろいろな変数があります。 例えば湿度・温度であるとか高度であるとか圧力であるとか。 しかし重力の違いだけは地上では体験できないと思います。 向井さんは生物学的に面白さを見ていらっしゃるのかどうかわかりませんが、 エンジニアとして私の感覚でいうと、モノの動き一つとっても地上の1Gでの常識と宇宙の0G(無重力状態)のそれはずいぶん違うんだと感じました。 ここから誰かにモノを投げて渡すとします。 地上なら無意識のうちに届く距離を描く放物線を計算して、ぽんと投げれば届きます。 宇宙では、的確に最初の速度で、正しい方向に力をちょっと与えてやればいい。 時間はかかるけど確実に届きます。 同様に、重たいモノを運ぶときにシャトルやステーションのロボットアームを使うことがあります。 アームの操作は重たいからと、力を入れる必要はないんです。 逆に、余分な力は加えないで弱い力を長時間、ゆっくりとかけることが宇宙の常識です。

立花 そういう感覚はプールでの訓練などで慣らすんですか?

野口 地上で訓練するうえでは、プールは最適な環境だと思います。 ですが、0Gでのモノの動き方までは無理です。 動き出したモノはやがて止まる。それが地上の常識です。 ところが宇宙では動き出したモノは止まらない。

立花 野口さんはEVA(船外活動)で3回真空の船外にでられ、いろいろな作業をされました。 作業のとき気をつけられたことはなんでした?

野口 実際船外活動するときは何を何番目にするとかは頭に入っていますが、念のため書きで絵を描いて持っていきました。 想定外の状況もありますので、たとえば真っ暗になったときどうするとか、その用心のためです。

立花 暗くなるというのは……。

野口 大きな変化では45分ごとに昼と夜が来る。 地球一周で一時間半ですから。 夜の時間は真っ暗です。 ヘルメットにライトがついていますが、これが消えることもありますから。

立花 面白いですね。


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